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最高裁判所第三小法廷 昭和31年(あ)2882号 判決 1958年9月30日

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

検察官の上告趣意第一点は、判例違反をいうけれども所論引用の判例は事案を異にする本件には適切でなく、同第二点は単なる法令違反の主張であって、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

しかし所論にかんがみ職権を以て記録を調べてみると、被告人等三名の本件各犯行は、日本共産党創立三十周年記念文化祭の後、検挙者を生じ一般群衆が喚声をあげ殺気立っていたとき、更に集会散会後無許可示威行進が行われたので警察官の部隊が実力行使によりこれを解散させたとき、検挙又は警備に当っていた警察官に対して、それぞれ投石したものであって、被告人川本の判示巡査吉崎敏二に対して投げた石は同巡査の耳のあたりをかすめて飛びその身体には当らず、被告人荒金の判示巡査洲之内稔に対して投げた石は同巡査の鉄兜に当り、被告人李の判示巡査厚地哲夫に対して投げた石は同巡査の臀部に当ったものであることが窺われるところ、原審は右各投石行為は暴行ではあるが、いずれも只一回の瞬間的な暴行にすぎない程度のものであるから、未だ以て公務執行の妨害となるべきものとは思われないとし、従って第一審が同一見解の下に、起訴状の公訴事実は刑法九五条の公務執行妨害罪となっているのに、被告人等の各所為は単純暴行罪であるにすぎないと認定し、同二〇八条を適用処断したのをそのまま是認したこと明らかである。しかしながら、公務執行妨害罪は公務員が職務を執行するに当りこれに対して暴行又は脅迫を加えたときは直ちに成立するものであって、その暴行又は脅迫はこれにより現実に職務執行妨害の結果が発生したことを必要とするものではなく、妨害となるべきものであれば足りうるものである。(昭和二四年(れ)第二八九八号、同二五年一〇月二〇日第二小法廷判決、集四巻一〇号二一一五頁参照)。そして投石行為はそれが相手に命中した場合は勿論、命中しなかった場合においても本件のような状況の下に行われたときは、暴行であることはいうまでもなく、しかもそれは相手の行動の自由を阻害すべき性質のものであることは経験則上疑を容れないものというべきである。されば本件被告人等の各投石行為はその相手方である前記各巡査の職務執行の妨害となるべき性質のものであり、従って公務執行妨害罪の構成要件たる暴行に該当すること明らかである。そうだとすれば被告人等の各投石行為がたとえ只一回の瞬間的なものであったとしても、かかる投石行為があったときは、前説示のとおり、直ちに公務執行妨害罪の成立があるものといわなければならない。原判決が被告人等の各投石行為の如き只一回の瞬間的な暴行にすぎない程度のものは刑法九五条の暴行には当らないという見解に立ち、かかる投石行為を、検挙又は警備に当っていた警察官に対してなしても、未だ以て公務執行妨害罪は成立せず、単純暴行罪が成立するにすぎないと判断したのは、同条の解釈を誤り、ひいて判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認をおかしたものであって、刑訴四一一条一号、三号により破棄を免れない。

よって同四一三条本文により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島 保 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一)

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